フード業界のプロフェッショナルをネットワークしています
2004年の年明け1月26日に日本フードサービス協会が発表した外食産業市場動向調査によると、2003年の1年間における新店を含む全店売上高は前年比0.3%減であり、1994年に集計を始めて以来、初めての前年割れとなりました。同様に、前年割れが続く既存店ベースの売上高は5.8%減で、これもまた、過去最大のマイナス幅とのことです。 しかし同時に、直近の数値で見れば、昨年12月の売上高は前年同月比101.6%であり、10月以降3カ月連続で前年を上回っています。同様に、客数は100.3%、客単価も101.3%と、いずれも前年を上回っており、特に客単価は8月以降ずっと前年をクリアし、安定した状態が続いているという見方もあります。 こうしたデータを踏まえて、昨年後半の飲食店利用客の動向を、繁盛店の状況などから推測してみると、外食利用の「オンリーワン」指向がさらに強まっているという傾向が感じられます。 具体的に言えば、『手近な店で間に合わせるのではなく、“本当に行きたい店、満足できる店、魅力・価値のある店”に集中して予算を使う』『標準化されたチェーン企業よりは、個人店や老舗など“そこにしかない店”の評価が高い』『どちらかと言えば低価格な店よりも、客単価が高くても満足度の高い飲食店の業績が良い』『同地域の中で同一ブランドを展開する店舗でも、すべての店が同様な業績傾向ではなく、満足度によって業績の差が顕著に出ている』といった傾向が、より強くなってきたということになるでしょう。 このような状況の中で、商圏内で「オンリーワン」の店として他店との差別化を図る要素としての「接客サービス」の重要性が見直され始めています。 そもそも、狭い国土に数多くの飲食店舗がひしめいているわが国においては、商品や価格中心の差別化には限界があります。米国式のチェーンストア戦略は、基本的にライバル企業の潰し合いですが、欧米流のドライな経営感覚と違い、わが国では、こうした戦略は消耗戦となり共倒れの結果を招きかねません。そのため、これまでライバル店との競合に打ち勝つ差別化の要素として、多く利用されてきたのが店舗デザインによる差別化でした。 テーブルサービスを行うような飲食店では、お客は、その店で過ごす時間の満足感のために料金を支払っていますから、店舗デザインの独自性による差別化は重要な要素となり得ます。しかしここ数年、新しい店舗デザインのスタイルがヒットすると同様の店が次々と出現するなど、店舗デザインの斬新さを打ち出した新業態の陳腐化のスピードは年々速まっており、リニューアル時の「改装効果」が半年も持続しないケースが出てくるにつれて、大きな投資を行う店舗デザインによる差別化の手法は、採算性という観点からは疑問視されるようになりつつあります。そうした中で、顧客満足度の向上によってリピート客を確保する手段としての「接客サービス」が重要な要素として浮上してきたのだと言えるでしょう。 もちろん、「接客サービス」の向上によって得られる効果は、あくまで来店客のリピート利用の促進に限られています。つまり「接客サービス」とは、顧客をつなぎ止め、他店へ流出するのを防ぐための手法であって、どんなに「接客サービス」を向上させたところで、そのことで新規客が大幅に増えるわけではないからです。既存店の売上を向上させ続けるためには、それとは別に、新規客の導入に向けたセールスプロモーションの施策を継続的に実施し続ける必要があるのです。 しかしそれでも、「接客サービス」の向上には、内装工事のような多大な投資は必要ありませんし、ライバル店には簡単に真似のできない独自の顧客満足を提供することも可能です。 昨年の大晦日、紅白の大トリを飾った「世界にひとつだけの花」の歌詞、「ナンバーワンにならなくても良い、もともと特別なオンリーワン」という言葉は、以前からマーケティングの世界では良く使われていた考え方ですが、今後の飲食店が顧客にとっての「オンリーワン」店舗になるためには、「接客サービス」の改善が大きなポイントになると言えるのかも知れません。
|