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このところの株価の上昇にともなって、「景気は少しずつ回復に向かっている」といったニュアンスの報道記事を目にする機会も増えていますが、そうした公式発表とは裏腹に、多くの飲食店では、売上増どころか前年比を割り込まないために必死の努力を続けているというのが実状ではないでしょうか。 少なくとも飲食業界に限って言えば、「体感できる」景気指数は、決して上向きとは言えないように思います。 その飲食店と同じマーケットを奪い合っているとも言えるホテル・旅館など宿泊施設の中で、このところ静かなブームになっているのが「日本旅館」です。 近年、話題となっている日本旅館とは、筆者が知っている名前を思いつくまま挙げてみても、静岡伊東の「月のうさぎ」、熊本天草の「五足のくつ」、京都の「俵屋旅館」、大分由布院の「亀の井別荘」など、新しい日本旅館のスタイルを追究しているところから老舗の風格とサービスを売りにしているところまで数多くあるのですが、これらの旅館はいずれも1人当たりの一泊料金が3万円以上もするような高額な宿泊施設ばかりです。部屋数の少ないこぢんまりとした雰囲気を売りにしているということもありますが、そのような金額にも関わらずどの旅館も先の予約は一杯であり、そうしたことが稀少価値となって、さらに人気を高める結果ともなっているわけです。 恐らく、こうした日本旅館の主たる客層(例えば経済的基盤をしっかり持った30代以上の女性など)は、多くの飲食店がメインターゲットとして想定している客層とかなり重なっていると考えられます。 仮に、1ヶ月に外食関連レジャーに出費できる上限が3万円程度の消費者を想定したとき、3千円〜5千円程度の客単価の飲食店であれば毎週1〜2回は通うことが可能ですが、このような日本旅館への一泊旅行を計画している場合は、当然その月の飲食店への支出は大幅に減らされてしまうでしょう。 これまで我々は、地域の同レベルの飲食店を競合店として設定し、そうしたライバル店に勝つことを主たる目標としてきたわけですが、もう少しマクロの視点で顧客の行動を観察してみると、実は全国の「有名日本旅館」という思わぬ伏兵に、ジワジワと我々のマーケットを奪われているということが真相なのかも知れません。 さらに言えば、東京エリアでは今年になって、後楽園の「ラクーア」や豊島園の「庭の湯」、お台場「大江戸温泉物語」といった、一ヶ所で丸1日楽しめる温浴レジャー施設が続々とオープンしています。 こうした施設もまた、トータルでの客単価は5千円〜1万円に達するような施設であるにも関わらず、現在は深夜まで多くのお客を集めて賑わっています。このような温浴レジャー施設では、当然、お客はその滞留時間中にさまざまな飲食利用も行っているわけですから、やはりその分、施設外の飲食店への支出費用は少なくなってしまうに違いありません。 こうした現状を考えるとき、我々は自分達の飲食店が、果たしてこのような人気の「日本旅館」や「温浴レジャー施設」以上の楽しさ・満足感を提供しているのだろうか? と、真剣に問い直してみる必要があると言えるのではないでしょうか。 それは「投資額や客単価が違うのだから仕方がない」というような、消極的な解答を出すための問いかけではありません。多くの顧客から、「有名旅館に一泊するくらいなら、あのレストランに2回行きたい」と言ってもらえるような、満足度の高い商品とサービスを提供することを目指さなければ、例え景気が回復したとしても、既存店の業績を伸ばすことはできないかも知れないのです。 飲食店が「食の楽しさ」を提供するサービス産業でもある以上、顧客を奪い合う競争相手として存在するのは、決して他の飲食店ばかりではないということを、我々は肝に銘じておく必要がありそうです。
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